「老い支度」、「老後の安心設計」という言葉を耳にしたことはありますか?
あなたが高齢であるにもかかわらず、何も準備をせずに認知症になったり亡くなったりすれば、ご家族に大きな迷惑をかける
ことになります。逆に、あなたが心身ともに元気なうちから、しっかりと老後や亡くなった後の準備をしておけば、いざとい
うときには、ご家族はきっとあなたに感謝することでしょう。
老後の準備は、法的な問題ばかりではありません。多くの方にとって最大の関心事は、老後の生活資金の工面でしょう。
しかしながら、老後の生活資金の工面はあなた自身の問題であるのに対し、法的な問題への準備はあなた自身の問題であると
同時にご家族の問題でもあります。
また、法的な問題への準備は、多額の資産を有してる方だけの問題でもありません。ごく平均的な資産状況の方はもちろん、
多額の債務を負っている方にとっても極めて重要な問題です。
「できる限りご家族に迷惑をかけたくない」、あなたが、そんなお考えを少しでもお持ちでしたら、弁護士があなたのお役に
立てるかもしれません。
老後の安心設計の具体例
「老い支度」、「老後の安心設計」の対策は一つだけではありません。多くの場合、以下の具体例も含めて様々な方法を組み
合わせることにより充実した対策を講じることができます。当事務所では、お客様の個別の事情に応じて、適切な対策をアド
バイスできるよう努めております。
また、「老い支度」、「老後の安心設計」は、あなたにとっては煩雑でめんどくさい作業ですが、何も対策をしない場合のご
家族の負担は、比較にならないほど大きなものになることがほとんどです。将来のご家族の精神的・物理的負担をあなた自身
が引き受けるつもりで、あなたが心身共に元気なうちから少しずつでも対策を講じておくことが重要になります。
□ 資産の把握・整理
あなたは自分がいくらの預貯金があり、どれほどの不動産を保有し、その他にどのような資産を有しているか正確に把
握していますか?逆に、どれほどの債務を負担しているか把握していますか?親から相続した不動産の名義(登記)はき
ちんと変更していますか?親や祖父母の相続手続はきちんと完了していますか?回収できないまま放置している債権は
ありませんか?
「老い支度」、「老後の安心設計」について対策を講じる場合、その前提として、あなた自身の資産状況を正確に把握
し整理ておくことが必要になります。上記の点に少しでも不安があるのであれば、まずはご自身で調査をしてみること
をお勧めします。あなたご自身での調査に限界があるのであれあば、そのときは弁護士にご相談されることをお勧めし
ます。
また、紛争が生じている権利関係はできる限り早期に解決し次の世代に紛争を残さないことが大切ですし、権利関係が
不明確な資産についてはできる限り早く権利関係を確定しておくべきです。仮に、権利関係は明確であっても登記しな
いまま放置している不動産等があれば早急に移転登記等をする必要があります。
例えば、何世代にもわたって遺産分割協議がなされていない事例などでは、相続人の数が多数におよびお互いの顔も
知らないというケースもあり、紛争の解決のために何年も要するということも稀ではありません。もちろん、紛争解決
のために多額の費用が発生することもあります。
このような潜在的な紛争リスクは、それ自体が負の遺産であり、残されたご家族にとって重い負担になります。
もし、このようなご不安が少しでもがあるのであれば、早期に対応策を検討することをお勧めします。
□ 遺言
「老い支度」、「老後の安心設計」の中でも、最も基本的な方法が遺言です。
遺言の最大のメリットは、いうまでもなく、あなた自身の資産をあなたが承継させたいと考える人に承継させることが
できるという点ですが、遺言のメリットはこれだけに留まりません。
遺言を作成しておけば、残されたご家族の間で無用な争いが生じるのを避けることができますし、あなたの遺産をご家
族が正確・迅速に把握できます。ご家族の間で争いが生じないとしても、あなたが遺言を作成していなければ、ご家族
は一からあなたの遺産を調査することになり、それだけでも大きな負担になります。また、残されたご家族の調査が不
十分のまま終われば、せっかくあなたが残した遺産は活用されずに放置されることになりますし、さらに次の世代に相
続争いを持ち越す可能性すらあります。
このように遺言は、残されたご家族の負担を軽減するための、一番基本的な方法です。
遺言には以下の3つの方式があります。それぞれの方式にメリット・デメリットがございますが、当事務所では、お客
様の個別の事情に応じて最良の方法をアドバイスさせていただきます。
① 自筆証書遺言(民法968条)
遺言の全文を遺言者自身の直筆で記述し(ワープロ不可)、日付、署名、捺印をすることにより作成する遺言。
遺言者自身で作成できる点で最も簡便な方式であるが、捺印は実印である必要がなく、偽造や遺言時の判断能力等
を巡って、相続人間で争いが起こりやすい点が欠点となる。また、本人死亡後に遺言が発見された場合には、家庭
裁判所への検認請求をする必要があり、この点で残されたご家族に負担をかけることになる。
② 公正証書遺言(民法969条)
公正証書によって作成する遺言。
公証人に対する手数料が発生する、原則として公証役場へ赴く必要がある等のデメリットはあるものの、遺言自体
の効力が争われるリスクは極めて低く、相続人間の紛争を予防するためには最適の方式。また、検認請求の必要は
ない(民法1004条)。
③ 秘密証書遺言(民法970条)
遺言者が遺言に署名、押印、封印した上で、公証人に申述する方式の遺言。
公証人は遺言の存在のみを確認し、内容は関知しないため、他人に内容を知られずに遺言をなすことができる。
また、遺言の存在についての争い(もともと遺言などなかったのに偽造したというような主張)が生じるリスクは
防止できる。本文部分についてはワープロによることや代筆も認められるため、この点でも簡便である。
しかしながら、公証人が内容まで確認するわけではないので、文書の内容についての争い(差し替え)が生じる可
能性は排除できず、また、検認請求も必要である。また、公証人に対する手数料も発生する。
□ 債務整理
もし、あなたが多額の借金を残し何の対策も講じないまま亡くなれば、残された家族の人生は大きく狂うかもしれませ
ん。残された家族が3か月以内に相続放棄をすればいいのですが、家族があなたの債務状況を知っているとは限りませ
んし、相続放棄についての理解が浅いこともあります。また、債務と資産の両方がある場合には、法的に正しい判断が
難しい場合もあります。
もし、あなたがいくらかでも債務を負担しているのであれば、家族のためにも生前に債務問題についてきちんと対策を
講じておくことが大切になります。
通常、債務整理の方法としては、任意整理、破産申立などが知られていますが、この方法では、土地建物や生活資金ま
でも失う可能性があり、債務整理後の生活が不安定になる可能性もあります。
他方、「俺が亡くなったらすぐに相続放棄をするように」と家族に伝えておくことも一つの方法ですが、家族に手間を
かけることになりますし、あなたが亡くなる前に相続放棄が必要となる相続人が誰になるかを確定することもできませ
ん。
当事務所では、お客様の個別の事情に応じて、できる限りお客様とご家族の負担が軽くなるような最適な解決方法をご
提案させていただきます。
□ 任意後見契約
将来、認知症などを発症し判断能力が低下したときに備えて、信頼できる者(受任者)との間で任意後見契約を締結し
、実際に判断能力が低下した際に、家庭裁判所に対し後見監督人選任の申立をなすことにより、受任者に後見人として
代理権や財産管理権を付与する契約です。
高齢化社会においては誰にでも認知症発症のリスクはあります。一旦、認知症を発症して判断能力が低下すれば、悪質
な業者に資産を狙われるかもしれません。また、このような場合には、
法定後見制度を利用することも可能ですが、ご
家族が同制度の存在を知らなければ、制度の活用は望めません。
また、任意後見契約は、
法定後見とは異なり、判断能力が正常なときに自ら後見人の選定に積極的に関わることができ
ますし、また、あらかじめ後見の準備をしておくことでご家族のご負担を軽減することができます。
このように任意後見契約は、将来、認知症になるかもしれない等のご不安をお抱えの方には、有効な解決策になりうる
ものです。
□ 見守り契約
見守り契約は、任意後見人契約を締結後、任意後見が開始されるまでの期間に、支援する人(通常は任意後見契約の受
任者)が本人と定期的に面談や連絡をとり、任意後見を開始させる時期を相談したり、判断してもらうための契約です
。
任意後見契約を締結しても、どのタイミングで後見監督人選任の申立てをするのか(=任意後見を開始するのか)は自
ら判断できないことも多く、信頼できる人間のアドバイスを受けながら決定することが有効になります。
また、判断能力が低下しない状態であっても、信頼できる人間に定期的に面会をしてもらうことで、日常生活に伴う種
々の問題を相談することもできます。
一人暮らしの高齢者が増加する中で、見守り契約の重要性は高まっており、今後の発展が期待されるところです。
□ 財産管理委任契約
正常な判断能力を有している状態であっても、体力の衰え等の理由から、財産管理事務を信頼できる第三者に任せたい
と考える方は多いでしょう。例えば、多数の不動産を賃貸しているが、自らその管理業務を行うことが煩わしくなった
という場合には、信頼できる家族や専門的ノウハウを有する弁護士等にその管理業務を委託したいと考えるかもしれま
せん。
また、そのような積極的な財産管理をなす必要がなくても、悪質な業者からの被害を防止したい、今ある資産をしっか
りと保全したいという場合にも財産管理委任契約は有効です。
財産管理の内容は、あなたと受任者との間で自由に決定することができます。たとえば、受任者に実印と印鑑登録カー
ドの保管をお願いし、必要な時だけ返却してもらうことや、預金通帳の管理を任せ、毎月定額の送金をしてもらうこと
も可能です。また、介護施設や老人ホームとの契約等の事務を委任することもできます。不正な行為を防止するために
、複数の管理者や監督人を付けることもできます。
※ただし、法的な行為の委任で報酬が発生する場合には原則として弁護士以外の者に委任をすることはできません。
判断能力が低下する前から財産管理委任契約を締結し、判断能力が低下した後は任意後見契約に移行するというように
両制度を組み合わせることで、さらに円滑な財産保全を可能とし、ご家族のご負担を軽減することも可能です。さらに
、亡くなった後の遺言執行まで受任者にお願いをすることで、円滑な資産承継までお手伝いすることも可能です。
このように財産管理委任契約は、「老い支度」「老後の安心設計」の一つの手段として注目されています。
□ 死後事務委任契約
死後事務委任契約は、あなたが亡くなった後に、誰かが対応しなければならない様々な事務をあらかじめ信頼できる人
間にお願いしておく契約です。もし、あなたが何も対策を講じずに亡くなれば、通常は、残された家族が様々な事務を
処理することになりますが、その負担は重いものになります。
そのようなご家族のご負担を少しでも軽減したい場合に有効なのが死後事務委任契約です。また、財産管理委託契約、
任意後見契約等と組み合わせることにより、さらに有効な方法となります。
死後事務委任契約では、たとえば、次のような事務を委任しておくことができます。
委任事務の内容や受任者の報酬については、契約により自由に設定することができます。
・親族関係者への連絡
・通夜、告別式、火災、納骨、埋葬に関する事務
・賃借建物の明け渡し、敷金の受領に関する事務
・老人ホーム入居一時金の受領に関する事務
・任意後見契約の未処理事務
・行政官庁への届出事務
・家財道具や生活用品の処分に関する事務
・以上の事務の債務の支払いに関する事務