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立証責任を意識した契約書

貴社が、ある会社と取引をするために契約書をドラフトする場面を考えてみてください。

貴社としては、取引先が契約に違反する行為をした場合には何らかの責任追及をしたいと考えるでしょうから、それに備えた条項をドラフトすることになりますし、貴社の担当者が新人でそこまで思い至らない方であっても、普通の契約書のひな形であれば、その程度の条項は必ず入っています。

ここで仮に、「Aが、第○項の規定に違反した場合、Bは、Aに対し、損害賠償金として1000万円を請求することができる。」(A=取引先、B=貴社)という条項を設定することにしたとしましょう。

この契約書(案)を取引先(A)に提示すると、取引先(A)の担当者は、損害賠償金1000万円は合理的な金額なので承諾するが、故意・過失がない場合には責任を負う理由はないのでこれを明記して欲しいと主張し、以下の修正案を提示してきました。

 ①「Aが、故意または過失に基づき第○項の規定に違反した場合、Bは、Aに対し、損害賠償金として1000万円を請求す  ることができる。」

民法や商法の原則から言えば、契約責任を追及できるのは、相手方に故意または過失がある場合に限られますから、取引先(A)の修正案は不当とは言えません。しかしながら、貴社としては、できれば取引先(A)に故意または過失がなくても、1000万円を請求できるようにしたいと考えるでしょう。

この場合、修正案を拒否し、原案に従い契約するよう求めるという交渉方法もありますが(注1)、貴社が取引先(B)に対して取引上優位な立場にない限り、交渉はデッドロック状態に陥る可能性が高いでしょう。

では、対案として、以下のような条項をB社に提示するとどうなるでしょうか?

 ②「Aが、第○項の規定に違反した場合、Bは、Aに対し、損害賠償金として1000万円を請求することができる。ただし
  、Bに故意・過失がない場合にはこの限りではない」

この場合、日本語の意味としては①も②も同じ意味になります。ですから、取引先(B)の担当者のレベルが高い場合でない限り、取引先(B)は、おそらくこの対案をそのまま受け入れてくれるはずです。

しかしながら、日本語としての意味が同じでも、裁判上の意味は①と②では大きく異なります。これが立証責任の問題です。

①の場合、裁判において、貴社が取引先(B)に対し1000万円を請求するためには、単に契約違反の事実だけでなく、取引先(B)に「故意または過失があったこと」を立証する責任を負います。しかしながら、取引先の故意または過失の有無は、貴社にはよくわからないことがほとんどでしょうから、実際にこれを立証することは極めて困難です。

他方、②の場合、裁判において、貴社が取引先(B)に対し1000万円を請求するためには、とりあえずは契約違反の事実だけを立証すればよく、取引先(B)の故意・過失の存在を貴社から立証する必要はありません。他方、仮に、取引先(B)が、免責を主張するのであれば、取引先(B)において「故意及び過失がないこと」を立証する必要があります。しかしながら、この立証も簡単ではないので、実際の場面では取引先(B)が免責される場面は多くはありません。

このように、日本語としての意味は実質的には同じであっても、わずかな文章構造の違いで立証責任が180度転換され、裁判所の勝敗が決まることがあるのです。このような立証責任の転換の法技術は、契約書だけでなく、法令上もよく用いられています(注2)。

取引先(B)の担当者は、貴社に要求を飲ませたと満足しているかもしれませんが、実際には、契約交渉としては完敗です。そして、完敗している事実には裁判になるまで気づかないのです。

この事例は立証責任の考え方を契約交渉に生かした一つの事例にすぎませんが、立証責任の考え方を契約事務に活用すれば、圧倒的に有利な契約交渉が可能になることもあることは理解していただけると思います。

しかしながら、契約事務において立証責任まで意識した解説は、インターネット上はもちろん専門書においてもほとんど存在せず、一般の契約担当者が立証責任の理論を駆使して契約事務を処理することは、ほぼ不可能に近い状況です。

ですから、もし、貴社が立証責任を意識した契約書のドラフト、契約交渉を進めたいのであれば(また、知らない間に相手方から立証責任をコントロールされた契約書の締結を強いらるリスクを避けたいのであれば)、契約事務に精通した弁護士のアドバイスを受けれる体制を整えておくことが重要になります。

(注1)この場合でも、厳密に言えば、Bの故意・過失が不要となるわけではないが、立証責任の観点からBが故意・過失のないことを立証する義務を負うことになるため、実質的には無過失責任に近い責任を認めることができる。
(注2)例えば、交通事故の場面において、民法709条の故意過失の立証責任を転換した自動車損害賠償保障法2条。

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