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このような条項は、フェアな価格での権利行使を確保するために有効であるとも言えますが、実際に権利行使が問題となる場面では、「公正な価格」、「合理的な価格」の算定を巡ってほぼ確実に紛争が発生します。当事者間の協議が成立しなければ、最終的には裁判所が価格を認定することになりますが、そこに至るまでには大きな労力・コストを費やす必要があります。
他方、このような労力・コストの発生を防ぐため、初めから特定の価格を権利行使価格として決めておくという契約処理をすることもよくあります。この場合、価格が初めから決まっているので、紛争リスクは大幅に低減されます。
しかしながら、初めから特定の価格を権利行使価格として設定することになじまない契約もあります。
例えば、以下のような合弁契約(ジョイントベンチャー契約)の事例を考えてみましょう。
A社とB社は共同出資によりX社(非上場の株式会社)を設立し、共同で特定の事業を遂行しようとしている。
しかしながら、X社による事業遂行過程でA社とB社の考えが対立し、話し合いによっても解決しがたい場合
に備えて、一方が他方の 株式を買い取る権利を認めることにより合弁契約(ジョイントベンチャー契約)の
解消ができる条項を入れたい。
このような趣旨の条項自体は、通常の合弁契約(ジョイントベンチャー契約)であれば大抵盛り込まれていますが、問題はその内容をどのように規定するかということです。
この場合、株式買取の時期によってX社がどれほど成長しているかによって、適正な権利行使価格は大きく変わってきます。X社の事業が初期段階であれば株式の価値は低いでしょうが、X社が大きく成長した後に権利行使をするのであれば株式の価値は当初の10倍にも100倍にもなりえます。
ですから、契約上、特定の価格を権利行使価格として設定してしまうと、アンフェアな価格による権利行使(または義務の履行)を強いられる事例が多発することになり、当事者双方が髙いリスクを負うことが避けられません。他方、「適正な価格」による権利行使を認めれば、紛争は避けられません。
フェアな価格による権利行使を可能にし、しかも価格算定を巡る紛争を回避したい、この矛盾する要望を解消するために考えられたのが以下のような趣旨の条項です(便宜上簡略化していますが、実際の契約条項はもっと緻密に作成します)。これが通称、ロシアンルーレット条項です。
X社の業務遂行に関して両当事者の意見が対立し協議によってもその対立が解消しがたい場合、一方当事者(申出人)
は相手方に対し1株あたりの買取希望価格を提示することにより、相手方の保有するX社の全株式を買い取るよう申出
ることができる。当該申出を受けた相手方は、当該買取希望価格により全株式を申出人に対し売り渡すか、買取希望価
格により申出人が保有する全株式を買い取ることのいずれかを選択することができる。
このような規定を設けておけば、申出人は、不当に低い価格を提示すれば、不当に低い価格での株式売却を余儀なくされるリスクを追うことになるため、合理的な価格(=売却に応じることが可能な価格)を提示せざるをえず、おのずとフェアな価格による権利行使が可能となります。しかも、この場合には、フェアな価格は申出人が設定するので、価格算定をめぐる紛争が発生することもありません。
ここまで完成度の高いスキームを構築することは簡単なことではありませんが、工夫を重ねることで矛盾する要請を同時に満たすことも可能なことがある、ということは頭に入れておいても損はないでしょう。